東京を代表する下町の一つ、千代田区神田の不動産市況が回復している。本格的な開発の波を受けず、取り残された感もあるエリアだが、オフィス賃料や地価の手ごろさが見直されている。最近は「古さ」に魅力を感じた若い世代が店を構えるようになり、街の表情も変わりつつある。
古書の街、神田神保町に拠点を置く不動産鑑定士の松岡貴史氏はここ数年で街の雰囲気が変わったと感じている。従来に若い世代が目立つようになった。飲み屋で談笑するスーツ姿の男女も増えた。「飲食店も立ち退いたらすぐ次が決まる。以前なら考えられなかった」
松岡氏によると、
神田はオフィスの移転先として人気が高まっている。不動産サービス大手CBRE(東京・千代田)がまとめた神田・飯田橋エリアの2017年12月末のオフィスの空室率は1.0%。前年比0.8㌽低く、主要5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)平均を0.4㌽下回る。人気を受けて賃料も1年で2%上がった。
いま神田と呼ばれる一帯は昔の神田区だ。1947年に麹町区と合併して千代田区になったが、ほとんどの町は神田錦町、神田小川町のように神田の名を残し地域の誇りを示した。いまも表通りから一歩入ると古い建物が並び、下町の風情を残す。
今年1月、千代田区で神田の名を持つ2つの町が半世紀ぶりに復活した。区の北部、猿楽町と三崎町が14年の区議会可決を経て「神田猿楽町」「神田三崎町」となった。住居表示法に基づく60年代の町名整理で手放した名を取り戻したいと、住民が十年越しの要望を続けてきた。
復活運動の過程では町名変更に反対もあった。要望に長年かかわった神田猿楽町町会の鎌倉勤顧問は「下町の印象で不動産の価値が下がるという、新しいマンション住民の声だった」と振り返る。
町名変更で不動産価値は下がったのか。18年の公示地価で商業地を見ると、神田猿楽町は前年に比べて8.6%、神田三崎町は6.7~7.8%上がった。好調なオフィス需要が両町にも波及し、上昇率は都区部平均(6.4%)を上回る。神田猿楽町の上昇率は千代田区の全52地点中で8番目に大きかった。少なくとも神田の名がマイナスに働いた形跡はない。
近年では若い経営者が吸い寄せられるように神田に集まっている。神田猿楽町で17年6月に開業したリンゴ専門店「ムカイ林檎(りんご)店神田猿楽町店」もその一つだ。デザイナー出身の片山淳之介店長はもともと別の地でリンゴ店を営んでいた。たまたま訪れた神田猿楽町が気に入り、新たに店を構えた。出版社の社員、学生、近所の住民らが来店する。「地元の人からは『食べ物を買う店がなくて困っていた』と喜ばれる」と笑顔を見せる。神田の魅力を「古いのに偉ぶっていない。新しいものを自然体で受け入れてくれる」と語る。猿楽町の町名変更も「古い地名を大事にしているのがいい」と好意的だ。
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